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Za niebieskimi drzwiami 青い扉の向こう

ポーランド映画 (2016)

ポーランドで初めて本格的にCGを使用したと謳っているファンタジー映画。「青い扉」の向こうに広がる世界は、『アバター』を思わせるが、『アバター』のようなフルCGではなく、実写の木や岩にCGで異世界的な菌類や藻類を付け、空気中に胞子を飛ばすことでそれなりの雰囲気を出している。基調になっているのは、父をかなり前に亡くし、母と11歳の息子2人だけで築き上げた家庭の愛の強さ。2人は、楽しみにしていたバカンスに出かけるが、車内で仲良くしゃべりすぎていて交通事故を起こし、病院でオーカシュ(Łukasz)が意識を取り戻すと、左膝が押し潰されて動けず、母は昏睡状態で別の病院に移されたと聞かされる。オーカシュの膝のリハビリには3ヶ月かかり、歩行スティックを使って何とか歩けるようになる〔原作では、1年入院している〕。すると、オーカシュは、それまで一度も会ったことも聴いたこともない伯母に嫌々引き取られ、伯母の住む城館のようなゲストハウスに連れて行かれる〔『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』の城館に似ている〕。そのゲストハウスには、かつて母が使っていた「青く塗られた扉」のある部屋があった。オーカシュは、その部屋で寝起きすることになる。子供を持ったことのない伯母との関係は最悪で、ひどい喧嘩をした時、偶然に「青い扉」が両方向に機能することを知る。そして、オーカシュは、扉の向こうにある世界に探検に出かける。そこで出会ったのが「クルファーヴィエッツ」(念動力術師)。彼は、無垢なオーカシュに呪いの菌糸を付けさせ、それで「青い扉」の反対側の世界(伯母のゲストハウス)を支配しようとする。オーカシュと化け物との戦いは、オーカシュが昏睡状態から脱出しようとする戦いでもあった。実は、交通事故で昏睡状態に陥ったのは母ではなく、オーカシュだった。母は、病院でオーカシュに付きっきりで、何とか息子が覚醒しないかと待ち望んでいる。その愛の力が、化け物と戦うオーカシュに「青い鳥」という形で援軍を送り込み。化け物を倒すことに成功する。化け物が倒れると、オーカシュは母の待っている病院で目が覚める。「ポーランドでもハリウッドのような映画が作ることができた」と自画自賛するくらいに、ファンタジーの世界は安価な割に良くできている〔『アバター』の森と、『ノウイング』のラストシーンの第2の地球の草原を足して2で割った感じ〕。オーカシュと伯母の関係は映画の中核の部分だが、2人の演技が見事なので、安心して観ていられる。何が問題かと言えば、昏睡状態だったのが母ではなくてオーカシュだったという「落ち」。原作があっての映画化なので致し方ないのかもしれないが、観ていて「騙された」ような感じを受けてしまう。映画のラストは、海岸での母子の戯れになっているが、これも物足りない。原作のように、現実の世界で伯母のゲストハウスに行き、「青い扉」をノックした瞬間に終わった方が、『アバター』で再生したジェイクが目を開けた瞬間に終わるのとよく似て、よりインパクトがあったと思う。さらに、あと2点をあげれば、1つは、「クルファーヴィエッツ」に操縦された伯母が、ハリウッド映画によく出てくる「天井を這いまわる怪物」になってしまい、子供だまし的な点。もう1つは、伯母のゲストハウスの近所に住む3人の「悪ガキ連」のラストの処理が不自然で、映画を観ていてもさっぱり理解できない点。こうしたもろもろの不満が、「鳴り物入り」にもかかわらず、受賞歴が寂しく、IMDbが5.6に留まっている理由であろう。そう悪くない映画なので、残念だ。

オーカシュ役は、これが映画初出演にして、主役を射止めたドミニク・コヴァルチェック(Dominik Kowalczyk)。配役が11歳なので、そのくらいの年齢であろう。特徴は何といっても、その「こぼれそうなほど大きな目」。一見、すごくハンサムに見えるが、口を開くと全くの別人になってしまう。あらすじの画像は、なるべく目の大きな沈んだ表情のものを選んだ。この映画にはポーランド語の字幕は存在しないので、英語字幕を使用したが、どのくらい正確かは分からない。例えば、青い扉の向こう側にある「誰もいない町」にある店の看板。「Pocz Taki(ポッツ・タキ)」、「Nar Zednik(ナー・ザインズニック)」、そして、悪の巣窟「Krwawiec(クルファーヴィエッツ)」は、ポーランド語にもない造語。訳せと言う方が無理かもしてないが、字幕は、それぞれ、「Post-ies」、「Tool-er」、「Entrailor」となっている。この映画の解説(英語版)で、一番最後は「Blood Blast」になっている。「Entrailor」という英語はないが、「Entrails(腸)」を連想させようとしたのかもしれない。「Blood Blast」の血については意味不明だが、「Blast」の部分には「念動力術師」という意味がある。なお、オーカシュだが、英語字幕では「Lukus」になっている。てっきりルーカスかと思っていたら、オーカシュと発音している。ポーランド語の解説を見たら「Łukasz」となっていた。「L」と「Ł」は全く違うのに、無理にアルファベットにすると、とんでもない間違いが起きる。言葉は難しい。


あらすじ

映画の冒頭、部屋でバカンスの荷造りを嬉しそうにやっているオーカシュを映しながら、本人の独白が入る。「僕は、今でも、1年前のあの日のことを思い出す。だって当然だろ。あの日、僕の人生ひっくり返っちゃったんだから〔観ている側は、当然、これから何が起きるんだろうかと身構える〕。オーカシュは、自分の準備が終わると、母の部屋に行き、カーテンを開けると、「起きて!」「行こうよ!」と寝ていた母を叩き起こす。母は、頭から布団をかぶって眠ろうとするが、オーカシュは力任せに布団を引っ張ってはがす。「あと、5分だけ。ほとんど寝てないの」。しかし、待ちきれないオーカシュは、ベッドの上に乗ると、ぴょんぴょん飛び跳ねる。これには母も負けて、枕投げ戦争(1枚目の写真)。2人がとても仲の良い親子であることが分かる。次のシーンで、オーカシュは、階段を駆け下りて1階下のヤジャおばさんに、出かける挨拶をする。2人とどんな関係があるのかは分からないが〔親戚ではない〕、優しそうな年輩の女性だ。「こんなに早く?」。母が「渋滞を避けるためです」と答える。オーカシュ:「じゃあね!」(2枚目の写真)。母がハンドルを握り、2人の乗った車はアパートを離れ、映画のタイトルが表示される。車は一気に郊外に。母は、「当てっこゲームする?」と誘う。「僕が先だよ」。「女性が先よ」。そして、母が問題を出す、「長くて、平らで、その上で泳げるものなーに?」。「カヤック!」。「違う」。「カヌー?」(3枚目の写真)。「平らよ」。「ゴムボートだ!」。「違う」。「筏」。「そうだった… 帆があるの」。「何だ、セールボードじゃないか」。母がオーカシュを振り向いて「明日から、その練習始めましょ」と告げると、オーカシュは大喜び。
 
 
 

その時、車の前方にトラクターが進入。ヨーロッパは、無信号交差点の場合、右側優先が鉄則だが、この場合は、速度の遅いトラクターが、違法に割り込んだ形になる〔母の前方不注意ではない〕。トラクターを避けようとした母は、ハンドルを右に切り、車は交差点から45度の角度で野原に進入、何度も横転する(1枚目の写真)。この時の車内の様子は、極端にスピードを落とした形で描写される(2枚目の写真)。そして、スピードは元に戻り、激しい衝撃が2人を襲い、車は上下逆さまになった状態でストップする(3枚目の写真)〔冒頭の独白の「人生ひっくり返っちゃった」には、人生が狂ったという意味の他に、車の事故の様子が加味されているのかも〕
 
 
 

オーカシュの意識が戻ると、そこは病院のベッドの中。横には、ヤジャおばさんがいてくれる。「痛いよ」。医者は、「いいかいお聞き。君の膝はつぶれちゃったんだ。だから、大変な手術をしたんだよ」(1枚目の写真)。オーカシュは、ヤジャおばさんに、「ママはどこ?」と尋ねる。おばさんにはとても答えられないので、医者が、「別の病院だよ」と教える。「どうして?」。「それはね…」〔医者も言いにくい〕「昏睡状態なんだ」。「それって何?」(2枚目の写真)。「お母さんはぐっすり眠り込んでいて、どうやっても起きないんだ」。「僕なら起こせるよ。そこに連れてって」〔バカンスに出かける前の「布団はがし」が念頭にある〕。「今は、体を休めないと」。それから、病室の窓から見える風景が15秒にわたって映される。最初は夏のバカンスに相応しい緑の木、それが紅葉し、落葉し、さらには雪が舞い始める。8月から10月までの3ヶ月ほどの経過をうまく表しているが、なかなか気付きにくい〔私が観た評論には「1ヶ月」と書いてあったが、最低でも3ヶ月だ(7月から11月かもしれない〕。カメラは雪の舞う窓からそのままパンし、リハビリ室で、医師が、手術をしたオーカシュの左膝の屈伸を、痛がるのを承知で行っている様子を映す(3枚目の写真)。医師は、「オーカシュ、君が早く退院したがってるのは知ってる。だが、リハビリはちゃんとしないと。ママの目が覚めたら、すぐに教えてあげるからね」。そして、退院。オーカシュは、ヤジャおばさんと一緒に、歩行スティックを使ってそろそろと病院の廊下を歩いている。「あなたのアパートから衣類を取って来ないとね」。「どうして?」。「私と一緒に住むからよ」。とても親切なおばさんだ。「でも、僕には家があるよ」。「でも、1人じゃ生きていけないでしょ」。
 
 
 

2人は病院を出て行くが、玄関の先は10段の階段になっている〔車椅子用のスロープもない!/ロケ地は病院ではないのか?〕。ここで、入院期間を知ろうと画面を見てがっかりした。道路には落ち葉が散乱している。リハビリに数ヶ月かかったとしたら、真冬(or 春)になるはずだが、これはどう見ても10月〔映画が撮影された時期→普通なら、物語に合わせてCGで処理するのだが…〕。先の「雪のシーン」は、単なる見せかけだった。オーカシュは、タクシーに乗るのを ためらう(1枚目の写真)。あれだけひどい事故の後だから、当然だろう。それでも何とか乗ったオーカシュは、おばさんに、母に会いに行きたいと懇願する。母は、病室の中で1人取り残されたように昏々と眠り続けている。オーカシュは、看護婦に頼んで中に入れてもらう(2枚目の写真、矢印)。そして、「ママ、起きてよ、家に帰りたい」と声をかける。さらに、歩行スティックを2本ベッドの横に置くと、「聞こえてるでしょ。長いこと会いに来なくてごめんね」と言い、母の髪を愛おしげに撫でる(3枚目の写真)。そのあと、「怒っちゃだめだよ」と言うと、バカンス前と同じように、「1,2,3」で、掛けられたシーツを一気にはがして起こそうとしたが、母の無残な姿を剥き出しにしただけで「魔法」は効かなかった。オーカシュは、母が永遠に目覚めないのではと、心配になる。
 
 
 

オーカシュは、ヤジャおばさんの居間でジグゾーをして無為な時間を過している〔絵は、後でオーカシュが探検に行く異世界の町~この時点では、そんなことは分からない〕。ジグゾーに飽きてきたオーカシュは、おばさんが眠りこけているのを見定めると(1枚目の写真)、こっそりと階段を上がり、自分の家に行く(2枚目の写真、歩行スティックは1本なので、退院時から日が経っているのかもしれない)。母のアパートはひっそりとして暗く、寂しくなるだけだった。おばさんは、ドアがバタンと閉まる音で目が覚める。「オーカシュ、あなたなの?」。「これ、郵便受けに入ってたよ」〔1階まで降りていたことになる〕。「一人で階段使っちゃダメじゃないの」。「そうだけど、明日ママを訪ねてって、これ読んであげないと」(3枚目の写真)。しかし、その手紙は、最終支払いがされていないという銀行からの警告書だった〔担保となっているアパートが取り上げられる。それを防ぐには、母が昏睡状態から回復し、働けるようにならないといけない〕
 
 
 

絶望的な事態が判明した時、ドアの呼び鈴が鳴る。オーカシュは、「足を慣らさないと」と言って、ドアを開けに行く。恐る恐るドアを開けると、怖い顔をした女性が顔を覗かせる。そして、いきなり、「君、オーカシュ・ボルスキー?」と尋ねる。「はい」(1枚目の写真)。「そう。荷造りなさい。一緒に来るのよ」。オーカシュは驚く。ヤジャおばさんも、不安になり、オーカシュの母から一度も聞いたことがないと言うが、「家族の事情を説明するともりはありません。とにかく近い親戚です」と取り付く島もない。ドアの陰に隠れて話を聞いていたオーカシュは、女性にいきなりドアを開けられ、床に転倒するが、それに対しても「盗み聞してなかったら、何も起きなかったでしょ」と冷たい(2枚目の写真)。オーカシュ:「何が、どうなってるの?」。ヤジャ:「アガタさんは、あなたの伯母さんなの」。「まさか」。「私は、君のママの姉よ」。「そんなの信じないぞ。ママは、お姉さんがいるなんて一度も言わなかった」。「言いたくなかったんでしょ」。「ママは、何でも話してくれた。この人、ペテン師だ!」。「よくお聞き、このクソガキ! 私だって嫌なんだ。お前がそういう態度を取るなら、もっと厳しくするよ!」。伯母は、証拠の品として、オーカシュの母と一緒に写した昔の写真を渡す。そこには、子供時代から20代にかけての姉妹の写真が何枚もあった。オーカシュも納得せざるを得ない。「ママ、お下げ髪だったの?」。「その頃は、流行ってたから」。「わめいたりして、ごめんなさい」。「私もね。子供の扱いに慣れてないの」。「子供じゃないよ」〔他の映画でも、小学生が同じ台詞を言っている〕。写真には「高い崖(Wysoki Klif)」と呼ばれるゲストハウス(ベッド&ブレクファースト)も写っていた。「明日、見られるわ」。「行きたくないよ」。「ワルシャワで世話してもらえるハズないでしょ。明日、出ますよ」(3枚目の写真、矢印は写真)。
 
 
 

翌朝、オーカシュが乗せられたのは、旧式で錆び放題のオンボロ車(1枚目の写真)〔伯母が19歳の時から乗っているというので、30年近くは経っている/アガタ役のEwa Błaszczykは撮影時60歳だが、母親役のMagdalena Niećは44歳。伯母の持ってきた写真で、子供時代の2人は数歳しか離れていないので、母親の年齢を優先した〕。「速くはないけど、私には十分よ」。オーカシュの、「いつ戻れるの?」という問いかけは無視される。車が伯母のゲストハウスに着いた時には、辺りは真っ暗になっていた(2枚目の写真)〔ワルシャワから最も近い崖状の海岸線までは300キロある。時速40キロくらいの低速走行なので8時間以上かかったであろう/この時期の日没は午後4時〕。玄関を入ったところは大きな空間になっていて、鹿の角が壁一面に飾られている(3枚目の写真)。階段の装飾〔アール・ヌーヴォーのポーランド版〕から20世紀初頭に建てられた館であろう。
 
 
 

オーカシュが見回していると、伯母が、「おいで、何か食べるもの、作ってあげる」と呼ぶ。オーカシュは食堂に入っていく(1枚目の写真)〔客用のではなく、キッチン併設の食堂〕。伯母:「卵は食べれる?」。夕食は簡単なスランブルエッグだけ。「沸騰したら、自分でティーを作りなさい。すぐ戻るわ」。栄養バランスのことなど考えていない。食べ終わる頃に戻って来た伯母は、「君のママの昔の部屋を用意しておいたけど2階なの。階段が嫌なら3号室の方がいいわね」と言うが、オーカシュは母の部屋を強く希望する。「階段きついわよ」。「構わない。ママの部屋がいい」。階段を上がる前に、伯母は、「『高い崖』で最も重要な規則。必ずノック」と言い出す。オーカシュには、何が何だか分からない。「部屋に入る前には、必ずドアをノックすること。復唱しなさい。非常に重要なことよ」。「必ずノック。なぜ?」。「宿泊客に失礼でしょ」。館の中は重厚な木で統一されているのに、母の部屋の扉だけ青く塗られている。「なぜ青いの?」。「君のママが塗ったの。いつも少し変だったのよね」。「素敵だ」。「さあね」。「好きだよ」(2枚目の写真)。「朝食は8時半。早く寝なさい。お休み」。伯母は、すぐにいなくなる。部屋に入ったオーカシュは、母のことが急に懐かしくなる。ベッドに腰を下ろすとスマホを取り出して母のスマホに電話をかけるが、聞こえてきたのは留守録のメッセージ。それでも声が聞けるだけいいので聴き直し(3枚目の写真)、設定画面にしているツーショット写真の母を見て、胸に抱いて寝る。
 
 
 

翌朝、オーカシュが階段を下りてくると、1階のメイン・ダイニングで宿泊客が朝食をとっている。オーカシュが、小さめの声で「お早う」と言って中に入って行くと、伯母が、「何をわめいてるの? 君の朝食はキッチン。お客様の邪魔をしない」と叱られる(1枚目の写真)〔伯母の声の方がよほど耳障り〕。がっかりしたオーカシュは、そのままバルコニーに出て、端まで歩いて行き、眼下に見える海に見とれる(2枚目の写真)。伯母が、「招待状がないと、キッチンに行けないの?」と嫌味を言う(3枚目の写真)。
 
 
 

朝食を終えたオーカシュは、玄関を開けて外に出てみる。門まではかなりの距離がある(1枚目の写真)。門を出てしばらく歩くと、2人の男の子と1人の女の子が一緒にいる。太った男の子がスケボーに乗って滑ってくると、「邪魔だ!」と言ってわざとぶつかる。本人もスケボーから落ちて膝をケガするが、一番の問題はオーカシュのスマホが落ちて、画面が割れてしまったこと。デブ少年は、「俺が来るのが聞こえなかったんか?」と咎めるが(2枚目の写真)、ぶつかった方が悪い。「聞こえたよ」。「なぜ、どかなかった?」。「まともに滑れると思ったからさ」。「お前こそ、歩き方を覚えたらどうだ、ちんば!」〔差別用語〕。「でぶっちょ!」。そこに伯母が現れたので、悪ガキ連は「気違いアガタだ!」と言って逃げて行く。心が傷付いたオーカシュは、母の部屋に閉じ籠もる。心配して伯母が入って来ても、「こんなとこに、いたくない!」。「そんな言い方やめなさい」。「ほっといてよ。こんなとこ大嫌いだ」。「あの子たちのせい?」。「全部さ! 伯母さんもだよ。家に戻してよ」(3枚目の写真)。「できないわ」。伯母は、代わりにオーカシュの父が着ていた服を置いて出て行く。
 
 
 

しばらくして、気を落ち着けたオーカシュは、父の残していった「ウッドランド」と呼ばれる迷彩服をはおってベランダに出てくる。オーカシュが父のことを尋ねると(1枚目の写真)、伯母は、これまで母が話してくれなかったことを聞かせてくれる。オーカシュの父は、バカンスのシーズンだけ手伝いに来ていて、オーカシュの母と恋に落ちた。そして、結婚式の前の夜、姿を消した。その夜、海は大荒れに荒れて、地元の漁船が暗礁に乗り上げて壊れ、4人は自力で泳ぎついたが、5人目は翌朝、気絶して流れ着いているのが見つかった。本人もどうして助かったのかは分からない(2枚目の写真)。「翌朝、君のパパはどこにもいなかった。ママさんはひどく取り乱した。私が、いなくなったのは彼が弱虫で、責任が怖くなったのよと言ったら、ママさんは腹を立て、荷物をまとめて出て行き、二度と戻らなかった」〔だから、母は、オーカシュに伯母のことは一切話さなかった。父のことも伏せていた〕。それを聞きながら、オーカシュはポケットに入っていたナイフを取り出して見る(3枚目の写真、矢印は先端の折れたナイフ)。伯母は、危険だから取り上げようとしたが、「注意するから。お願い」と懇願して返してもらう。
 
 
 

別の日、オーカシュは海に面した崖の上に行き、画面の割れたスマホを取り出しスイッチを入れ、母の写真をじっと見る(1枚目の写真)。そして、母のスマホに電話をかけると、今度は留守録ではなく病院の看護婦が出た。母の様子を訊こうと名前を告げて、「ママは目を覚ましましたか?」と訊く。しかし、その時、デブ公が投げた石が頭に当たる(2枚目の写真、矢印)。「やったぞ! すごいだろ。百発百中だ」。オーカシュは、明日かけ直すと言って電話を切る。オーカシュ:「望みは何だ?」。「別に。退屈してたから」。「僕に構うな」。女の子:「あんたが ここに居つくんなら、教えてあげようと思って」。「こんなとこに住むもんか。いつだって出てってやる」。すると、デブ公がある光景を指差して せせら笑う(3枚目の写真)。
 
 
 

自分の目が信じられないオーカシュは、急いで館に戻る。そこには1台のトラックが停まり、中からダンボールが運び出されていた(1枚目の写真、矢印は荷物)〔オーカシュの母のアパートにあったすべての私物〕。「それ、僕のだ! 僕のと、ママのだ!」。伯母は、「もっと前に言うべきだったわね。銀行がママの家を取り上げたの」。「なんで、教えてくれなかったの?!」。オーカシュは母の部屋に直行する。そして、部屋に入ると中から鍵をかける。「オーカシュ、開けなさい。話し合いましょ」。「イヤだ。ママが目を覚ましたら、見てるがいい! この泥棒! ママは絶対許さないからな!」(2枚目の写真)。「スペアキーを持って来させる気?」。そう言うと、伯母はドンドンと何度も扉を叩く。オーカシュも、歩行スティックを使って叩き返す。「もう うんざりだ!」。そして、右手でもドンドンと叩く。「あんたも、この家も、バカげた規則も、うんざりだ!」(3枚目の写真)。
 
 
 

この時、最後に思い切り叩くと、木を叩く音から金属音に変わる。オーカシュが不思議に思って、軽く叩いてみると、金属が響く音がする。そして、しばらくすると、扉の周りから白い光が漏れ出す(1枚目の写真)。オーカシュは恐る恐る扉に近づき、隙間から外を見ようとする(2枚目の写真)。そして、鍵を解除し、思い切って扉を開ける。そこは、建物の中なんかではなく、外には異様な世界が広がっていた(3枚目の写真)。
 
 
 

怖くなったオーカシュはすぐに扉を閉め、ベッドに逃げ込むと、布団をかぶって中に籠る。そして、父のナイフを取り出す。その時、扉から漏れていた光が消える。しかし、オーカシュはナイフと懐中電灯を持ったまま構える(1枚目の写真、矢印はナイフ、懐中電灯は日本で普通に売っているものよりLEDが多い〔恐らく、51灯タイプ〕)。オーカシュは、そのまま眠ってしまい、次に目が覚めた時には、部屋の中は真っ暗。懐中電灯を点けてドアの前まで行くと、伯母がドアを開けて入って来る。「伯母さんだ!」。「当たり前でしょ」(2枚目の写真、矢印は隠し持ったナイフ)。「オーカシュ、どうかしたの?」。オーカシュは慌てて懐中電灯を消し、「えーと、気分が悪くて…」とごまかす。「何も食べてないからじゃないの? キッチンに来なさい」。「ここで食べても?」(3枚目の写真)。「そうしたいなら…」。伯母は出て行く。
 
 
 

オーカシュは、扉の向こうに本当に館があるのか半信半疑。そこで、伯母がいなくなると、何度もさっと開けてみて、自分が館の中にいることを確かめる(1枚目の写真)。しかし、何回目かに突然さっと開けた時、ちょうど伯母が食事を持って外にいたので、扉がトレイにぶつかり、コップが倒れてしまう(2枚目の写真、矢印)。「何してたの?」。オーカシュはベッドに逃げる。皿の中はこぼれた飲物でベタベタ。「取り替えてくるわ」。「しなくていいよ。お腹減ってないから。それに、とっても眠いんだ」(3枚目の写真)。「バスローブを着て寝るつもり?」。「少し寒いから」。「温度を上げてあげようか?」。「このままでいいよ」。そして、電気を自分で消してしまう。伯母は、何となく変だと思いつつ部屋を出て行く。
 
 
 

伯母がいなくなると、オーカシュは懐中電灯を点けて扉まで行き、隙間がどうなっているか調べてみるが、何も分からない。そこで、懐中電灯を棚に置いて扉を照らすと、ナイフを持った手で扉を叩いてみる。何度も叩くうち、音がまた金属音に変わる。そして、光が漏れ出す(1枚目の写真、矢印はナイフ)。オーカシュは、護身のためにナイフを構えたまま、扉から外に出てみる(2枚目の写真、矢印)。空は浅いオレンジ色。空には幾つも衛星が浮かび、背後には青い扉が立っている。これなら、いつでも戻って行ける。地面は背の高い草で覆われ、一面に胞子が飛んでいる。自然の風景に、蛇のような幹を持つ植物と、背の高いキノコのような木をCGで加えただけのものだが、雪のように舞う胞子が異世界感を巧く出している。オーカシュは少し歩き、蛇の幹を持つ植物が群生している場所に行く。歩行スティックで触ってみると、胞子が飛び出てくる。そのうちに、一羽の青緑色の鳥が近づいてくる。オーカシュが、「やあ、変なの」と声をかけると、しばらく目の前の空間で羽をバタバタさせながら静止するが(3枚目の写真、矢印)、手を伸ばそうとすると、さっと逃げて行く。「待てよ。悪いことなんかしないから」。部屋履きのスリッパではこれ以上進めないと思ったオーカシュは、渋々部屋に戻る。扉を閉めると、しばらくして光は消え、普通のドアに戻る。とっておきの秘密を手に入れたオーカシュは、満足して眠りにつく。
 
 
 

翌朝、オーカシュがキッチンの食堂に座っていると、伯母が、「今日、最後のお客が出て行くから、邪魔しないよう、散歩でもしてきなさい」と言って、チーズ・サンドを手渡す。オーカシュは粗末な朝食をほおばる(1枚目の写真、矢印は丸パンのサンド)。オーカシュは、パンを食べながら、玄関を出て門の外に歩きに行く。いつもの場所に3人組がいる。前を通ると、デブ公がジロりと見る(2枚目の写真)。「ここは、俺たちのシマだ。歩くなよ」。女の子は、「黙りなさいよ。誰が歩いたっていいのよ」と言った後で、「どうして 片方の脚が短いの?」と訊く。「病院にいたんだ」〔正しい答えになっていない〕。それを聞いた3人目のメガネの子が、「聞いたか? あいつ、事故に遭って、ママは死んじゃったんだ」と言う〔死んだから、「気違いアガタ」と暮らしている、と思った〕。「違う! まだ。生きてるぞ!」。その時、デブ公が、壊れたスケボーを直すのをあきらめ、「ガタクタだ。お前にやる」と、オーカシュの前に投げ捨てる。「お前なら使えるかもな」。女の子は、オーカシュのことが可哀相になり始めている〔孤独な感じが可愛いので〕。オーカシュは、父の残したナイフをねじ回し代わりに使ってスケボーを動くようにする。そして、デブ公に向かって滑らせる。「大事にしろ」。おデブ君は、オーカシュを見直したのか、手を上げて謝意を示す(3枚目の写真)。それを見たオーカシュは、心が通い合えて嬉しそうだ。
 
 
 

オーカシュが館に戻ってくると、伯母がどこにもいない。そこで、前に言われた通り、ドアをノックしては開けて、中を覗く〔返事がないなら、中には誰もいないはずだが、オーカシュは、「ドアを開けるにはノックしないといけない」と思い込んでいる〕。客室を全部見終わり、残るは、1階のメイン・ダイニングのみ。ノックして中に入る。ドアの右手には大きな絵が飾られているが(1枚目の写真、矢印)、そこに描いてある「塔のような町」は、かつて、オーカシュがヤジャおばさんの居間で遊んでいたジグゾーパズルと同じ絵。すなわち、このすぐ後にオーカシュが3度目の探検に行く時に見る異世界の町と非常に似ている。オーカシュは、絵の右側にあるドアも確かめようと、ノックするが、開けるとそこは物置で、ホウキが倒れ掛かる(2枚目の写真)。それを見ていた伯母は、「何してるの?」と訊く。いきなり現れた伯母に、オーカシュはびっくりして、「僕? ノックだよ」と答える。「何のため?」。「ノックしろって」(3枚目の写真)。「だけど、お客さんは全員いなくなったのよ」〔「最も重要な規則。必ずノック」と言い、その規則を解除していない→伯母も一方的すぎる〕。「伯母さんがいるよ」。「私が、物置に座ってると思ったの?」〔立派なドアなので、まさか物置とは思わなかった→意地の悪い言い方〕「いつも変なことしか しないのね」。「ごめんなさい」。そして、「上に行ってるよ。脚が痛むから」と母の部屋に逃げ帰る。
 
 
 

部屋に戻ったオーカシュは、鳥用にビスケットを数枚ポケットに入れると、着替えを入れたミニ・リュックを背負い、冒険の旅に出発する(1枚目の写真、矢印はリュック)。オーカシュは森の中に入り、巨大な岩の隙間の道を歩いて行く。岩からは奇妙な白い生き物がいっぱい生えている(2枚目の写真)。クラゲのようなものをつかむ場面もある(3枚目の写真)。前にも書いたように、『アバター』(4枚目の写真)を思わせるシーンだ。杉の木立も、幹に房状に藻をつけることで、異世界を感じさせる。オーカシュが森を出ると、目の前には、高い生垣で囲まれた町があった。その真ん中に聳えるのは、ジグゾーやメイン・ダイニングの絵に描かれていた「塔の町」だ。
 
 
 
 

オーカシュは、密生した分厚い生垣に開いた穴を見つける。ここを下りて行けば、町に入ることができる(1枚目の写真、矢印)。脚を守りながら一歩一歩下りていくと、斜面はいつしか路地状の階段に変わり、一番下まで降りていくと、町の石畳の道に通じている(2枚目の写真)。通りには紙ゴミが散乱し、さながら廃墟のよう。ひと気は全くない。猫一匹いない。町角にあった最初の店には「Walizownik」と書いてある。ポーランド語ではない。異世界なので、言語も意味不明にしたのだろう。オーカシュは「塔の町」に向かって歩く。2つ目に映るのが、以前指摘した「Pocz Taki」、通りをはさんで反対側にあるのが「Nar Zednik」。道の正面、Y字路の角にあるのが「クルファーヴィエッツ(Krwawiec)」だ(3枚目の写真、矢印)。
 
 
 

オーカシュは、ドアが開いていたので、「クルファーヴィエッツ」の店に入ってみる。そこは、服飾店だったようで、中には、マネキン、糸、裁縫道具などが置かれている。その時、変な音がする。「誰かいるの?!」。「よってーくれて、うれーしいよ」。それは白い髪を生やした人形だった。びっくりした仰向けに倒れたオーカシュは、一瞬、母の笑顔を見る〔オーカシュが昏睡状態から覚醒する最初の兆し〕。母の顔は消え、代わりに白くて口のない化け物の顔が目の前に迫る。「こわーがるな」。「お前は誰だ? ここはどこだ?」。「どこーから来た?」。「扉を通って来たんだ」。「扉だと?」。「『高い崖』に扉があるんだ。青い奴。そこから入って来た」。オーカシュは、「行かないと」と逃げようとする。しかし、化け物は放してくれない。「聞いてるのか。 行かないと」。「ダメーだ」(1枚目の写真)。「伯母さんが心配してる」。「伯母さん?」。「もーっといるのか? お前の世界には、お前以外にもーっといるのか?」。「人間? いっぱいいるよ」。「ひゃーくか?」。「何十億もね。そこらじゅうだよ。じゃあ、行くね」。「お前みたいなのは、いるーのか?」〔「びっこ」のこと〕。「この膝、ちっとも治らない!」。化け物はオーカシュをつかみ、膝に白い菌糸をかける。すると、痛みが消えて普通に歩ける。「痛くないや。ありがとう」。「感謝はいらーん。治してやった代わりに、やってもらう」。「何を?」。「持って行って欲しいものがあーる」。「何?」。「土産だ。手を出せ」。オーカシュが手を出すと、化け物は薬指に白い菌糸をかける。そして、「哀れで老いたクルファーヴィエッツを忘れるな」と言う(2枚目の写真、矢印は白い菌糸の指輪)。「絶対忘れないよ。じゃ、さよなら」。オーカシュが店から飛び出すと、それを追いかけるように、白い菌糸が這うように伸びて来る。オーカシュは走って逃げるが、菌糸の伸びるスピードも早い(3枚目の写真、矢印はオーカシュ)。オーカシュは菌糸に追われつつ路地の階段を登り、生垣の穴から這い出す。その時、今まで姿を見せなかった「変なの」〔青緑色の鳥〕が現われる。鳥は、帰りの道案内をしてくれる。オーカシュは走れるのでスピードは早い。森を抜け、青い扉の近くまで来る。オーカシュは、お礼に持ってきたビスケットを渡そうとするが、薬指にまかれた白い菌糸を見た鳥は、菌糸を引きちぎろうと攻撃してくる。この「白い菌糸」〔オーカシュの昏睡を象徴〕は邪悪なもので、鳥はそれを攻撃する〔昏睡を解く〕使命を持っている。だから、菌糸を攻撃するのは当然なのだが、オーカシュは「バカ鳥」に攻撃されたと思い込み、追い払うのに躍起になる。
 
 
 

やっとの思いで部屋に辿り着くと、悲しい現実が待っていた。化け物の治療が効いていたのは異世界の中だけで、現実の世界に戻ると、膝がまた痛くなったのだ(1枚目の写真)。途中で捨てずに歩行スティックを持ってきたのは正解だった。その時、ポケットに入れたスマホが鳴る。電話は伯母からだった。「分かったよ、伯母さん、1分でそっちに行くから」。オーカシュはリュックを外し、右手の薬指に巻かれた「指輪」を棚の上に置いて、部屋を出る。すると、指輪は勝手に解け、スルスルと壁面を下りて、オーカシュの後を追う(2枚目の写真、矢印)〔形は蛭、動きは蛇のようで、リアルかつ気色が悪い。しかも、すぐに増殖して数を増やしていく〕。オーカシュがキッチンに下りて行くと、「どこにいたの?」と強く訊かれる。「散歩してた」。「こんな時間に?」。「たまたまだよ」。「どれだけ心配したか分かってるの?」。「ごめんなさい」。「なぜ、電話に出なかったの」〔異世界は圏外〕。「バッテリーが切れちゃって」〔さっき出たのに、変〕。「バッテリー切れ?!」。「怒鳴らないでよ」。「怒鳴ってないわよ」。オーカシュは、自分の方が悪いと思い、伯母に抱きつく(3枚目の写真)。そんなことをされたことのない伯母は、急に優しくなり、「心配したのよ。今度からは、どこに行くか話してね」と優しく声をかける。2人の仲は、せっかく、ごく普通の伯母と甥の関係になったのだが…
 
 
 

朝になって目が覚めたオーカシュ。何か様子がおかしい(1枚目の写真)。急いで1階に下りていく。キッチンの食堂に入ろうとすると、床には石がいっぱい落ちていて、白い菌糸虫も蠢いている(2枚目の写真)。食卓の上も石だらけ。究極は、シミーズ姿の素足の伯母だった。周囲には石があり、白い菌糸虫も足を這い上がっている(3枚目の写真、矢印は菌糸虫)。オーカシュが近づいていき、「伯母さん」と呼びかけると、昨日の化け物のように、「オーカシュかなー?」と変に伸ばして発音する。「なーにか、食う物が欲しいのか?」。それを聞いたオーカシュは逃げ出す。
 
 
 

館を飛び出たオーカシュは、3人に助けを求める。しかし、直前まで来て転倒。女の子が助け起こしてくれる。仲間の2人は、デブ:「何だそれ? デートでもするんか?」と冷やかす。女の子:「黙って! 助けてあげないと!」。デブ:「拘束衣、あったっけ?」。女の子:「具合が悪いことくらい、分からないの?」。ここで、オーカシュがようやく口を出す。「僕じゃない、伯母さんなんだ!」。デブ:「じゃあ、拘束衣は2着だな」。「僕のせいだ」。デブ:「お前、伯母さん殺したのか?」。「違うよ、クルファーヴィエッツがやったんだ」。メガネ:「クルファーヴィエッツ?」。「別の世界から来たんだ」。メガネ:「そんなもんあるかよ。かついでるんだ」。女の子:「黙りなさいよ。ウソには見えないわ」。「お願い、助けてよ」(1枚目の写真)。オーカシュ+3人は館に向かう。オーカシュが玄関を入ると、先ほどまでと様子が一変している。部屋中に、白い菌糸が蜘蛛の巣のようにかかっている。デブ:「ここ、嫌いだ」。女の子:「何よ、これ。掃除したことないの?」。デブ君が見上げて恐怖の叫び声。指差した先には、天井に貼りつき、髪の毛(菌糸)が化け物のように長くなった「伯母」がいた(2枚目の写真、矢印)。「おきゃーく連れーてきたのか。よーくやった」。「伯母」は4人を見下ろし、髪を蛇のように動かしつつ、壁を伝い降りて来る。4人は、逃げようとするが、「伯母」は一足早くドアの上の天井に達し、通れないように塞ぐ〔髪の毛が通行を阻止する〕。「なーにか、食べたくはないーのか?」。オーカシュは別の方角に3人を誘導する。「こっちだ!」。メイン・ダイニングに入ると、両開きのドアを閉め、「伯母」が入れないように中からテーブルやイスを積み上げてブロックする。その隙に、バルコニーから逃げようとするが、白い菌糸に邪魔されて突破できない。その間に、「伯母」がドアを突破する。4人は逃げ(3枚目の写真、矢印は「伯母」の頭)、オーカシュが前に間違って開けた物置の中に隠れる。
 
 
 

しばらくしてオーカシュがドアを少し開けてみると、ドアは白い菌糸で覆われている。菌糸を少し破り、眺めた感じでは、「伯母」はいなくなっていた。「いないよ」。「ホントに?」。「ホントさ」。オーカシュが先頭に立って、案内する。前よりも、一段と蜘蛛の巣状の菌糸が多くなっている。オーカシュは、菌糸の間に穴の通路を作って階段の下に出ようとする(1枚目の写真)。デブ君は押し込まれ、女の子は後ろを警戒しつつバックで通過。4人が揃う。そして、階段を上り始める(2枚目の写真)。その時、天井に隠れて張り付いていた「伯母」が床に飛び降り、最後尾のオーカシュに襲いかかろうとするが、オーカシュは歩行スティックで相手の顔面を突いて撃退。その隙に、女の子とメガネがオーカシュを助け上げ、ぎりぎりで母の部屋に飛び込む。オーカシュは青い扉に鍵をかけるが、扉の周囲からは白い菌糸が触手のように入り込んで来る。オーカシュが必死で扉を叩き続けると(3枚目の写真)、幸い金属音に変わっていく。
 
 
 

オーカシュは、3人を異世界に案内する。オーカシュは、脚が痛くなくなったので大喜び。デブ公は、「なら、飛べるのか?」と嫌味を言う(1枚目の写真、矢印は「青い扉」)。オーカシュと女の子が先に進もうとすると、口だけ達者で気の小さいデブ公は、戻ろうとする。女の子:「なら、伯母さんによろしくね」。この言葉で、戻るのも怖くなり、仕方なく後をついていく。オーカシュは、「ここをママが見たら…」と言いかける。女の子:「あなたのママ、ずっと病院なの?」。「うん。昏睡状態なんだ。事故の後、目を覚ましてくれない。だけど、いつかきっと…」(2枚目の写真)。4人は巨岩の間を通り、森を抜ける。その時、前に遭った青緑の鳥が何羽も飛んでいるのが目に留まる。そして、正面に白い菌糸で覆われた町と、その前の高い生垣が見えてくる。4人が草原を下りていくと、背後の森から大量の青緑の鳥が飛び立ち、一斉に襲いかかってくる(3枚目の写真)。しかし、それは4人の誤解で、青緑の鳥は生垣にこびり付いた白い菌糸を食べてくれたのだ。青緑の鳥はクルファーヴィエッツの天敵ということになる〔先回も、オーカシュの指に巻かれた白い菌糸を食べようとした〕。そのことに気付いたオーカシュは、1羽残った青緑の鳥に砕いたビスケットを食べさせ、羽を優しく撫でてやる(4枚目の写真、矢印は砕いたビスケット)〔CGとの合成は割と良くできている〕
 
 
 
 

4人は生垣をくぐり抜け、「クルファーヴィエッツ」の店の前まで来る(1枚目の写真、矢印はオーカシュが懐に入れた青緑の鳥)。臆病なデブ公は店に入るのを拒む。女の子は、「この弱虫。あなたなんかサイテーね」と軽蔑する。メガネも入るのを遠慮したので、結局、オーカシュと女の子の2人だけで店に入る。店の中では、白い菌糸の髪を部屋中に伸ばしたクルファーヴィエッツが待っていた(2枚目の写真、矢印はクルファーヴィエッツ)。「戻ったぞ」。「えらーく長く 待たせたな」。「僕の伯母に 何したんだ?」。「世話してーるだけだ。お前たちガーキどもも、世話してやる!」。オーカシュは、隠していた鳥を放つ。鳥は果敢に戦いを挑むが、1羽だけでは話にならない。すぐに床に叩きつけられる。「お前は、わしを倒せるとでもおもーったのか?」。クルファーヴィエッツは、2人に向かって菌糸を放ち、菌糸は2人を繭(まゆ)のように包み込む(3枚目の写真)。オーカシュに近づいたクルファーヴィエッツは、オーカシュの着ている迷彩服を見て、「それは何だ。お前の父親の…」と言い始める。「僕のパパを知ってるのか?」。クルファーヴィエッツは、かつて自分が解き放った嵐の夜の話をする。4人は岸に泳ぎつき、5人目を自分のものにしようとした時、オーカシュの父が差し出がましい行為に出た。そこで クルファーヴィエッツは父を罰した、という内容だ。
 
 
 

その時、店の前に、母が現れる。母が先に進もうとすると、そこは病院に変わり、昏睡状態にあるオーカシュの病室を仕切る大きなガラス窓が、邪魔をする。中では、オーカシュの蘇生行為が行われている(1枚目の写真)〔恐らく、事故直後のことであろう〕。母は、病室に入りたくて、ガラスを割る。すると背後から青緑の鳥の群が現れる(2枚目の写真)。鳥は、割れた窓から病室に入って行き、オーカシュの姿が見えないほどの数となる(3枚目の写真、矢印はオーカシュの顔)〔これは、オーカシュが昏睡状態から抜け出そうとする「戦い」を象徴している〕
 
 
 

この大量の鳥は、そのまま「クルファーヴィエッツ」の店に雪崩れ込む。そして、一斉にクルファーヴィエッツを攻撃する(1枚目の写真)。際限のない鳥の数の多さに、クルファーヴィエッツは床に倒れこみ、白い菌糸がどんどんと食べられていく。オーカシュと女の子を包んでいた繭もなくなる。そして、クルファーヴィエッツは鳥に覆われ、最後には何もなくなる(2枚目の写真、矢印)。次のシーン。2人、プラス、役立たずだった2人は、青い扉に向かって最後の草原を登って行く。しかし、その途中で、オーカシュ以外の3人は、次々と消えていく(3枚目の写真、矢印は分解していく2人)。青緑の鳥はすべて青い扉の中に飛び込んでいく。伯母の館の中をきれいにするためだ。
 
 
 

オーカシュが青い扉をくぐると、母のベッドには伯母が腰掛けていた。髪の毛はすべて鳥に食べられたので、丸坊主になっている。しかし、顔はこれまでになく柔和だ。部屋には数羽の鳥がくつろぎ、伯母の肩にもとまっている。オーカシュは、伯母の隣に腰をおろす(1枚目の写真)。伯母が、「何てきれいな鳥たちなの」と言って微笑みかけると、オーカシュの体が徐々に分解していく(2枚目の写真)。最後は顔だけになり、それも消えると、画面は真っ白になる。
 
 

そして、徐々に、ぼんやりと見えてきたのは、ベッドに寝ているオーカシュの目線で見た病室の様子。かすかな、「ママ」という言葉。画面には母の顔が大きく映り、次第に鮮明になっていく。何ヶ月も昏睡状態だったオーカシュに変化が現れたのだ。母は、喜び驚いて、「オーカシュ」と呼びかける。「そこにいるの?」。「オーカシュ? ずっとあなたを待ってたのよ!」。「ママの目が覚めた!」(1枚目の写真)。「違うわ。目が覚めたのはあなたよ!」。母は、すぐにナースコールのボタンを押す。「息子の目が覚めたの!」。まさかと思いつつオーカシュの目に光を当てると、強く反応する。看護婦はすぐに医者を呼びに行く。母は、目を開ける力のないオーカシュの頬を手で包むと、歓喜の涙にくれる(2枚目の写真)。
 
 

元気になったオーカシュが、自分が見たもののことを話している。「すっごく大きな居間があって、キッチンが…」「ママの部屋の扉は青くって…」(1枚目の写真)。「その話は、あなたが眠ってる間に聞かせたのよ」。「ホント? パパのことは?」。「それもね。どうやって出会って、いなくなるまで、どう一緒に過したか」。「ママ、パパは消えたんじゃない、船にいたんだ。誰かを助けたんだよ! ヒーローだったんだ!」。さらに、「伯母さんは具合は? 訪ねてもいい?」と訊く。返事は意外だった。「姉は、何年も前に死んだの。あなたがまだ小さい頃にね」。それを聞いたオーカシュの心は沈む(2枚目の写真)。「姉のことも聞かせたわ」。2人はじっと見つめ合う。そこに、朗報を聞いたヤジャおばさんが、お見舞い(お祝い?)に入って来る。3人は抱き合って喜ぶ。すごくいい隣人だ。映画では、オーカシュと同時に目覚めた3人のガキ連のことも映されるが、要領を得ないので割愛する。
 
 

ラストシーン。浜辺で仲良く遊ぶオーカシュと母(1枚目の写真)。オーカシュの独白が流れる。「僕たちは、バカンスで『高い崖』にいる。毎日、散歩してる。話したり、笑ったりして。僕は、病院のベッドで何ヶ月も寝てたって、みんな言うけど、全部ホントとは とても思えない。ママは、僕の話を信じてるフリをするけど、きっと理解できないのが怖いんだ」。この時、浜辺に打ち上げられた壊れた舟の中で、オーカシュは折れたナイフを見つける。明らかに異世界で伯母からもらった父のナイフの先端部だ〔だから、父のナイフの先端は平らだった〕。これは、父が5人目を救助した証拠に違いない(2枚目の写真)。「僕は、青い扉の向こうの世界のことは、これ以上言わないことにした。だって、ママを怖がらせたくないから」。
 
 

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